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ディレクター込山正徳の個人的ぼやき


by papanamida

オランダで出会ったラテンのりの男。

オランダ滞在5日目。
今回の取材はコーディネーターも通訳も同行していません。
自分ひとりでホテルや駅や取材先に行かないといけません。これが結構大変なこと。
全く知らない土地、それもオランダ。オランダ語。

英語がある程度通じますが、オランダ人は結構イイカゲンな英語を喋ります。
要するに、英語にオランダ語やドイツ語やスペイン語がゴチャゴチャ混じっていて聞き取りにくいのです。
私の英語は、中学生英語ですので、相当にあやふやなやり取りで進めています。

昨日、オランダ南部のスヘルトヘンボッシュという駅から、タクシーに乗りました。
その運転手が、カルロスゴーンが長髪になったような鋭く独特な存在感の顔をしておりまして、

私が、 「あなたは俳優みたいなルックスですね」 と言ったら、
その長髪のゴーンは運転中なのに大きなジェスチャーでこう答えました。

「そう、私は俳優。今、危機なのでこうしてタクシーを運転しているんだけどな」
「危機」と言うのは、要するに長髪ゴーン自身の経済危機のことらしい。

私は「本当ですか、俳優ですか。素晴らしい」と社交辞令でやりすごしたら、
「今は、映画監督 をしているんだ」と言いながら名刺をくれる。運転中なのに。
名刺には、「インディペンデントフィルムプロダクション SAYE FILM」とある。

映画監督なのに、オランダの地方都市でタクシー運転手をしているなんて、ちょっと怪しい。
それに、この長髪のゴーン、土地勘があまりないようだ。
ナビゲーションに住所を入れる時も、スペルを間違っていた。そうゆうところは、私見逃しません。

結局、何度も友人に電話をかけ、行き先の確認をしている。それもスペイン語が混じっている。
私が「あなたは、どこの国から来たのですか?」と訊ねたら、ここからが興味深い話だった。

ゴーン「生まれたのは、イランだ。その後、アルゼンチンのブエノスアイレスにいた。
そして今は、オランダだ。私は、スペイン語、英語、アラビア語、オランダ語、フランス語が喋れる」と言う。

私は「素晴らしい!!!」と感嘆するふりをして質問する。
「なんで、オランダにいるの?」
「だから、危機なんだ。危機」と言う。そしてゴーンは続ける。

「私は、オランダが好きでない。退屈な所だ。
 オランダは寒い。オランダ人も気候と同じように冷たい。
 ブエノスアイレスは、いいぞ。タンゴも最高。料理も最高。
 一年のうち8ヶ月がビーチで泳げるんだぞ。ブエノスアイレスは最高!!」


と大声で叫びながら、タンゴみたいな歌を歌いだす。
歌いながら、時々ハンドルから手を離し、車は蛇行運転をする。
しかし、ゴーンはそんなの気にかけない。
オランダでラテン系?イラン人のタクシーで死にたくないよお!!!!

それにしても、目的地にはなかなか着かない。同じ道をぐるぐる回っているんじゃないか、このゴーンは。
情熱的なのは、わかるけど、ちゃんと仕事してくれよ。

そのうち、ゴーンの話は、勝手な人生哲学みたいになっていく。

「俺には子どもは、いない。公式にはな。ハッハッハッ。
 本当は、世界中にいるかもな。ハッハッハ!!!! 俺の知ったことではない。
 でも公式に責任をもつ子どもはいない。
 俺は、子どもや家庭に責任を持ちたくないんだ。
 俺が責任を持つのは、一つだけ。わかるか? それはアートだ。
 俺は、俺のアートには全て責任を持つ」


とかなんとか、喋り続ける。彼の言うアートとは、映画のことらしい。
私も実は、映像の仕事をしていると身分を明かし、
映画や編集の最新技術について話をしたら、ゴーンも結構、知識があった。
映画監督というのも、全くのデタラメではなさそうだ。

そして、ようやく目的地に到着。ふーっ助かった。
ゴーンは「今度一緒に、飲もうな。いつでも電話してくれ」と言い、お釣りの小銭を手渡す。
ゴーンは、車から降り離れていく私に、いつまでも笑顔で手を振っていた。

経済危機で、しかたなく、好きでもない土地オランダでタクシーを転がしているゴーン。
彼が、この土地に馴染まないのがよく理解できる。

オランダ人の生活は、地味で実直。彼のようなラテン系のノリとは全く違う。
仕事よりも、タンゴと女とアートが好きなゴーンには合うはずもない。

早く経済危機を乗り越えて、ブエノスアイレスに戻ってよ、ゴーン。
いつか、世界的な映画の賞で彼の名前を見かけることが、あるのだろうか。

ゴーンの本当の名前は 「Kia Aziz」。今、「SAYE FILM」で検索したら、
立派なホームページがありました。本当に、アルゼンチンの映像制作会社の代表でした。
http://www.sayefilm.com/

こっちも、インディペンデント(独立系)の映像制作会社、ファルーカの代表。幸いこちらは経済危機ではないけれど。
地球の反対側で、同じ様なことをして生きている男と、オランダの地方都市で出会うなんて、なんて不思議なこと。
なんだか、疑って申し訳なかったなあ。 それにしても面白い出会いでした。
彼の写真は、帰国したらアップしますね。

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by papanamida | 2010-11-17 06:23